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デザインコース ユニット5 | 目安: 160時間 (約2ヶ月)

実戦演習 ― 依頼に応えるデザイン

ここまでは「自分が作りたいもの」を作ってきました。仕事のデザインは「人の困りごとを解決するもの」です。このユニットでは、スタッフをお客さん役にして、ヒアリングから納品までの流れを架空案件3本でまるごと経験します。ジュニアの実務に一番近い2ヶ月です。

このユニットのゴール 「ヒアリング → 提案 → 制作 → 修正対応 → 納品」の流れを自分で回せるようになり、曖昧な依頼を、理由のあるデザインの選択肢に翻訳できるようになる。

進め方の地図

やること 仕上がるもの
1週目 授業1: ヒアリングの型 自分のヒアリングシート
2週目 授業2: 提案の型 (3案 + 理由) 提案プレゼンの練習1回
3週目 授業3: 修正依頼への応え方 修正依頼カード5枚の回答
4〜5週目 案件1: パン屋のリニューアル 納品物一式
6週目 案件2: 子ども食堂のサイト 納品物一式
7〜8週目 案件3: バナーのシリーズ制作 + 振り返り 納品物一式 + 3本の振り返りメモ
このユニットの主役はスタッフとの「ごっこ」です。スタッフ (またはAI) に店長役・担当者役をお願いして、本気でやり取りします。照れずにやった人ほど伸びる、と約束できるユニットです。

授業1: ヒアリングの型 ― 聞けない人は作れない

デザインの失敗の多くは、手を動かす前 ― 聞くべきことを聞いていない段階 ― で起きています。毎回必ず聞く6項目を、自分のヒアリングシートとして持ちましょう。

聞くこと質問の例
① 目的「これができたら、何が増えるとうれしいですか? (来店・予約・寄付など)」
② 相手「一番来てほしいのは、どんな人ですか?」
③ 雰囲気「お店を3つの言葉で表すと? 逆に『こう見られたくない』は?」
④ 必須要素「必ず入れたい文字・写真・ロゴはありますか?」
⑤ 好みの見本「いいなと思う他のお店のサイトやチラシはありますか?」
⑥ 締切と形式「いつまでに、どんな形 (サイズ・枚数) で必要ですか?」
例題 (リードつき) | 15分ヒアリングをやってみる
  1. シートを写す上の6項目を、Figmaか紙に自分のヒアリングシートとして写します。
  2. 店長役をお願いするスタッフに「パン屋の店長役」をお願いします (この後の案件1の予行です)。スタッフの都合がつかない日は、AIに「架空のパン屋の店長として答えて」と頼む方法もあります。
  3. 15分聞くシートの順に質問し、答えをそのまま書き込みます。きれいにまとめようとせず、相手の言葉のまま書くのがコツです。
  4. 最後に要約を返す「つまり、◯◯な人に◯◯してもらうための、◯◯な雰囲気のデザイン、で合っていますか?」と確認します。この一言で、勘違いの9割は防げます。
記入例 (答え): 目的 = 新作の食パンの予約を増やしたい / 相手 = 近所の年配のお客さん / 雰囲気 = 暖かい・素朴・「安っぽくは見られたくない」/ 必須 = 食パンの写真と電話番号 / 好み = 隣町の和菓子屋のチラシ / 締切 = 2週間後にA4チラシとSNS画像。― この6行が埋まっていれば、もう迷子になりません。

授業2: 提案の型 ― 3案 + 理由

プロの提案の定番は「方向性の違う3案」です。1案だけだと、お客さんは良し悪しを判断できません。3案あると「Bの色でAの構図」のような対話が生まれます。そして発表は、いつもの型 ―「目的 → 案 → 理由」― で話します。

例題 (リードつき) | 方向性の違う3案を作る
  1. 軸を決めるヒアリングの「雰囲気」の答えから、振り幅を作ります。例:「暖かい」が注文なら、A案 = 王道の暖かさ (暖色 + 丸み)、B案 = 素朴さ寄り (生成り色 + 手書き風)、C案 = 上質さ寄り (深い茶 + 明朝体)。
  2. ラフは小さく3枚1案を作りこまず、それぞれ30分のラフで止めます。提案段階の作りこみは、外れたとき全部無駄になります。
  3. 理由を1行ずつ添える「B案は『安っぽく見られたくない』の答えとして、余白を多めに取りました」のように、ヒアリングの言葉と結びつけます。
  4. 聞かれる前に弱点も言う「C案は上質に見えますが、親しみは少し下がります」。正直な提案は、それだけで信頼されます。
演習 2-A (ヒントだけ) | 例題ヒアリングの内容で3案ラフを作って発表する

お題: 授業1の15分ヒアリングの結果から、3案のラフを作り、店長役のスタッフに5分で提案します。1案を選んでもらうところまでがゴールです。

ヒント: 発表の最初の一言は「今日の目的の確認からです」。目的 → 案 → 理由の順番さえ守れば、口べたでも提案は成立します。デザインが話す内容を、あなたは案内するだけです。

授業3: 修正依頼 ― 曖昧な言葉を翻訳する

納品前には、ほぼ必ず修正依頼が来ます。そして依頼の言葉は、たいてい曖昧です。ジュニアの腕の見せどころは、曖昧な言葉をデザインの選択肢に翻訳して返すことです。言われたまま直すのでも、不機嫌になるのでもありません。

お客さんの言葉翻訳して返す例
「もっと目立たせて」「大きくする・色を強くする・まわりの余白を増やす、の3つの目立たせ方があります。今回は余白案が崩れにくいですが、見比べますか?」
「なんか寂しい」「写真を1点足す案と、色数はそのままで濃淡を強める案を作ってみます」
「お任せします」「では、最初の目的 (予約を増やす) に一番効く案にします。理由もあとで説明しますね」
演習 3-A (リードつき) | 修正依頼カード5枚に答える

お題: 自分の過去の作品 (ユニット3の美容室カンプなど) を1つ選び、次の5枚の修正依頼が来たと想定して、それぞれ「翻訳 + 直し案」を作ります。直しは実際に手を動かします。

  1. カード①「文字が読みにくい気がする」― まずコントラスト検査をします。合格なら、次はサイズと行間を疑います。検査 → 仮説 → 直しの順です。
  2. カード②「もっと高級感を」― 高級の定番翻訳は「余白を増やす・色数を減らす・明朝体・細い線」です。2つだけ選んで適用します。
  3. カード③「全部目立たせて」― そのままやると全部沈みます。「一番大事なのはどれですか?」と優先順位を聞き返すのが正解です。聞き返す台本を書きましょう。
  4. カード④「ピンクをもっと増やして」― 言われたままがほぼ正解のカードです。ただし70 : 25 : 5が崩れない範囲で増やし、崩れる場合は代案を添えます。
  5. カード⑤「前の方が良かった」― 戻すのは負けではありません。Figmaのバージョン履歴から前の版を呼び出して、両方並べて選んでもらいます。履歴の開き方 (ファイル名横のメニュー → Show version history) も練習しましょう。
答え合わせ: 5枚とも「感情的にならず、検査と選択肢で返せたか」だけが採点基準です。直しの仕上がりの良し悪しは、ここでは二の次で構いません。

架空案件3本 ― ヒアリングから納品まで

ここからが本番です。3本とも、流れは同じです ― ①ヒアリング (15分) → ②3案ラフ提案 → ③選ばれた案を制作 → ④修正依頼に1回対応 → ⑤納品 (ファイル一式 + ひとこと説明)。スタッフ役の人には、案件ごとに1回は曖昧な修正依頼を出してもらいましょう。

案件1 (リードつき) | パン屋「パンの森」のチラシとSNS画像

設定: おなじみのパンの森が、新作食パンの予約を増やしたいと相談に来ました。納品物はA4チラシ1枚とSNS用正方形画像1枚です。授業1〜3の例題がそのまま予行になっているので、流れに乗るだけで完走できます。

  1. ヒアリング授業1の例題の記入例を、そのまま今回の答えとして使ってOKです。
  2. 3案ラフ → 提案授業2の例題の3方向 (王道・素朴・上質) で作ります。
  3. 制作 → 修正対応 → 納品選ばれた案を仕上げ、修正1回に翻訳つきで応え、PNG書き出し (Figmaの右下Export) で納品します。
案件2 (ヒントだけ) | NPO「いずみ子ども食堂」の紹介ページカンプ

設定: 地域の子ども食堂が、活動を知ってもらい寄付と見学を増やすための1ページサイトを作りたがっています。納品物はスマホ版 + PC版のカンプです。相手は「派手なのは苦手。怪しく見えないことが一番大事」と言っています。

ヒント: 「怪しく見えない」の翻訳は、活動の写真・運営者の顔と名前・お金の使い道、の3点を見える場所に置くことです。信頼の設計はユニット3の情報設計の応用問題です。
案件3 (リードなし) | 雑貨店「つきのわ」のセールバナー3サイズ

設定: 雑貨店の冬のセール (12月1日〜25日・全品2割引き) を、SNS正方形 (1080 × 1080)・Webバナー横長 (728 × 90)・ストーリー縦長 (1080 × 1920) の3サイズで展開します。同じデザインルールで、形の違う3枚をそろえる ― 反復の卒業試験です。ヒアリングの質問づくりから、自分だけで回してみましょう。

3本終えたら | 振り返りメモ

案件ごとに「うまくいったこと・詰まったこと・次はこうすること」を3行ずつ書きます。この9行は、ユニット6でポートフォリオの「制作の物語」の材料になります。

つまずきやすいポイント

修正依頼で凹んだら: 修正は、あなたへのダメ出しではなく「お客さんが本当の望みに気づいた瞬間」です。最初から完全な注文ができる人はいません。修正対応こそが仕事の本体だと知っている人は、現場で長く信頼されます。
提案が怖いとき: 弱点ごと見せる勇気 (授業2の手順4) が、実は一番の安全策です。隠した弱点は納品後に見つかり、見せた弱点は提案中に解決されます。

発展チャレンジ (余力のある方へ)

発展チャレンジ
  • 案件1のチラシを、実際に紙へ印刷してみましょう。画面と紙では色も文字サイズも印象が変わります。その差を観察ノートに記録すれば、印刷物にも強いデザイナーへの一歩です。
  • 「見積もり」を体験してみましょう。案件3にかかった時間を記録して、「時給1,200円なら、いくらの仕事だったか」を計算します。在宅ワークの値づけ感覚の練習です。
  • クラウドソーシングのサイトで「バナー制作」の実案件の募集文を3つ読み、ヒアリングシートのどの項目が書かれていて、どれが書かれていないかを分析してみましょう。

できたチェック